[第3部(余談)/第04回]壁打ちの件

■余談シリーズ(北野北署(架空の警察署名)相談中驚愕事件)④

「あの野郎、なんで北野北署にお前が通報するんだよ!」壁打ちのツイキャス発狂配信は1時間半を超えていた。

「北部の野郎が北野北署に連絡するならまだしも、あの●●●が、なんだこのテロップは!"北野北署に相談中"って」

私は腹を抱えて笑いながら放送専用のパソコンのボリュームとパトカーのサイレン音を更に増やしてテロップを新たにした。

『それでもやっぱり相談中』

壁打ちは激怒しまくっていた。あまりにも怒っていたので、般若心経の音声も加えてみたら、怒りは更に増加した。般若心経がなぜ駄目なんだろうか。

 『●●●、お前…一線越えたな、完全に一線越えた。これは北野北署に俺が連絡しよう。お前、実際には相談なんかしていなかったら脅迫罪だからな』また刑法が登場だったが、なぜ警察に相談中というテロップを流されて、相談していなかったら壁打ちに対する脅迫になるのか、全く筋が通っていなかった。しかもテロップは私の放送枠に書いているだけであって壁打ちの枠のコメントに書き込んでいるわけではないのだ。イチイチ私の放送を覗き込むからいけないのだ。嫌なら覗き込むなと言いたい。

ただ言えるのはこの壁打ちの反応は警察に相談される事が怖ろしく感じる事であることの自己暴露であった。本当に笑わざるを得ない。

 そして壁打ちは配信を続けた。

「北野北署に電話しよう、あり得ない、ありえない、●●●はあり得ない。」

「家の電話から電話しようかな、携帯電話からにしようかな」

「電話、北野北署は、何番だぁ」

と言いながら中々電話をかけない。躊躇の気持ちが芽生えてきたのだろうか。あれだけ怒りまくっていたテンションは急激に下降していった。

5分ぐらい心の葛藤は続いていたが、ようやく意を決したのか、電話を握った。

プップップッ。

ゆっくりと、ダイヤルを押す音が配信に乗った。

そして再びダイヤルボタンを押す手を止めて、

「やっぱり配信外でかけようか?」

どんな気持ちが心の中を掻きむしっているのかはわからなかったが、確かに錯乱しているようだった。

「では一旦放送終わります、また電話かけ終わったら放送再開します」

やはり配信外でコッソリ電話することに決めたらしい。ビビっていた、完全にビビっていた。普段のぞんざいで大言壮語の壁打ちは完全に萎れきっていた。

 

 私は壁打ちの放送再開を待っていたが40分経過しても放送は再開されなかった。今日の放送はないような雰囲気も漂ってきた。1時間ほど経っただろうか、壁打ち配信が再び始まった。

「はい、始めます」

心なしか元気がなかった。北野北署に電話を本当にしたのだろうか、暫く壁打ちの声色から、かけたかどうか見極めることにした。

「あのですね、北野北署に電話したらですねぇ」

なんだ、このテンションの低さは!

「刑事さんが出て来て、北部と●●●の本名を伝えて、何か私が問題になるような事をしたかのような情報が入っていませんかと聞いたらですねぇ・・・」

実際に電話したようだった。

「そうしたら刑事さんが、『ああ、その件ですか、あなたは、その壁打ちさんですか、本名は何ですか』と聞かれたので、当然私は正直に堂々と答えました・・やましい所はないからね・・」

自分を鼓舞しながらの配信が続いたが、図らずも電話での取り調べが始まってしまったようだった。

「そうしたら刑事さんは私にこう言いました。『今はね、北部さんに話を聴いている段階で、あなたからお話を聴く段階ではないから、あまり気にせずにね、まぁテレビで芸人さんがふざけた事を言っていても、ああ、馬鹿な芸人さんが馬鹿な事を言っているんだなぐらいに聞き流していればいいんじゃないですか、いずれね、あなたからも事情を聴かなければいけないなと警察が判断すれば、警察の方からね、あなたに電話連絡をする事になるから、まぁそれまではテレビの馬鹿な芸人さんの馬鹿な話だなぁと思っておけばいいんじゃないですか。あなたに連絡したい時はこの電話番号でよろしいんですね』と言われてね、まぁ電話を切ったんだけどねぇ」と警察への相談が実際に行われていた事が判明し、壁打ちは暗澹たる気持ちに苛まれたようだった。2時間前の連続発狂配信が嘘のようにテンションが下がっていた。そして壁打ちはポツリと

ツイキャス上だけにしておこうよ、あんまり乱暴な事、しないでね」と呟いた。

 散々私や北部氏のリアル生活に悪影響を与え続けたくせに、何を今更寝言を言っているのかと思った。

 結局、この日の壁打ち配信はこれで終了になってしまった。更に翌日には再び配信が始まったのだが、前日同様ローテンション配信が続いていた。そして「捜査当局の皆さん、検察、司法関係者の皆さん、私は逃げ隠れせずに、嘘偽りなく、正直に捜査に全面協力いたします、ハイ、そういう気持ちでいますのでよろしくお願いします」と配信した。そんなに自身の真意を伝えたければ、その連絡はツイキャスではなく電話の方がいいのではないかと思ったが、壁打ちはもはや電話だかツイキャスだか、よく認識できないほどに動揺していたのかも知れなかった。